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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)68号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由第一について。

所論の「被上告人が、本件甲家屋の階下以外の部分について明渡の請求権を放棄した」というような事実は、原審で上告人がこれを主張した形跡は記録上全然存しないから、原審が右事実の存否を判断しなかつたのは当然であり、また、かゝる当事者の主張しない事実の存否に関し証拠調をする必要はないから、原審が所論証人伊藤良彦を訊問しなかつたのはなんら違法ではない。それ故論旨は理由がない。

同第二について。

証拠調の限度は原審の自由裁量に属するところであり、かつ所論証人神谷は唯一の証拠方法ではないから、原審がこれを訊問しなかつたからとて違法ということはできない。しかのみならず記録によると、右証人神谷については、上告人は原審において民訴二五八条一項および民訴用印紙法六条ノ三、三号の規定による要件を具備した証人訊問の申出をなした形跡もないのであるから右証人については適法な証人訊問の申出がなかつた訳であり、したがつて原審がこれを訊問しなかつたのは当然であつて論旨は理由がない。

同第三について。

借家法一条の二に規定する建物賃貸借解約申入の「正当事由」とは、賃貸借の当事者の双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照し妥当と認むべき理由をいうのであつて、所論のように特に賃借人側の利害のみを重視して判定すべきものではない。原審は、当事者双方の利害関係を考慮し、社会通念に照し、本件甲家屋二階を被上告人に使用させることが公平妥当であると判断していることが判文上明白であつて右判断は正当であるから論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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